前編では、なぜプレスナップモーションがここまで浸透したのかを、データとともに見てきた。後編では、この流れに対してディフェンス側がどう対応してきたのか、そして今後どうなっていくのかを見ていく。

対応策1:セーフティのポストスナップ移動

2025年シーズン、ディフェンスがスナップ直前・直後にセーフティを動かした割合は30.2%に上った。あえてスナップ前に特定のカバレッジに見える配置を見せておき、スナップと同時に別の形へ切り替える ―― この「見せてから変える」手法が、モーションへの対抗策として広く定着している。

LOS S(スナップ前) S(片側へローテーション) S(逆側へローテーション)
図: スナップ前は中央に構えていたセーフティが、スナップと同時に左右どちらかへローテーションする。オフェンスはスナップ前の絵を基準に読むため、このローテーションが事前の読みを狂わせる。

オフェンスのプレコールはスナップ前の見た目を基準に組み立てられることが多いため、あえて誤った絵を見せることで、事前の読みを無効化しようとしている。

対応策2:カバレッジの偽装が急増

これは単発の技術ではなく、より大きな潮流でもある。カバレッジを偽装する割合は、2022年の26.8%から2023年27.8%、2024年30.4%、2025年32%と年々上昇している。

26.8% 2022 27.8% 2023 30.4% 2024 32% 2025
図: カバレッジを偽装するプレーの割合は、2022年から2025年にかけて年々上昇している。

2022年から2025年第6週までを集計した数字では、偽装されたカバレッジに対してQB(クォーターバック)の完成率が65.3%・7.14ヤード/アテンプトとやや高くなる一方、タッチダウンよりインターセプションの数の方が多い。一発の長打を防ぎながらミスを誘発する効果が表れている。

DBのクロストレーニングと実例

守備側の対応を支えているのが、DB(ディフェンスバック)とLB(ラインバッカー)の垣根を越えたクロストレーニングだ。モーションに振り回されないスピードと、ゾーンを読むコーチングを兼ね備えた選手が重宝されている。

具体例が、2025年に49ersのディフェンスコーディネーターへ復帰したロバート・セイラーだ。同ディフェンスは「ウィークセーフティ」をハッシュに固定せず、状況を見て判断する「ビジョンディフェンダー」として起用し、ウィークローテーションのカバー3とクォーターズを組み合わせるスキームを採用している。この結果、2024年にリーグ29位だったランディフェンスは、2025年に7位まで改善した。

背景・トレンド: セーフティのローテーションやカバレッジの偽装は、モーションだけへの対策ではなく、オフェンス全体のプレスナップ読みを鈍らせるための、より広い枠組みの一部として広がっている。

今後の展望

モーションと、それに対する偽装・ローテーションの応酬は、今後もいたちごっこのように続いていくはずだ。オフェンスは新しい動かし方でディフェンスの反応を探り、ディフェンスはその反応自体を隠すことで対抗する。この「見せて、隠す」の駆け引きこそが、現代のNFLディフェンスを理解する上で欠かせない視点になっている。

観戦のヒント: スナップ直前・直後にセーフティが大きく動く場面があれば、それはディフェンスがカバレッジを偽装しているサインかもしれない。
もっと詳しく

ディフェンス側がプレスナップの情報からどう読み、対応するかの基本は、以下の基礎知識で解説している。