プレーアクションを使ったパスは、使わなかった場合よりYPA(ヤード・パー・アテンプト)で1ヤード以上、QBレーティングで15以上も高い。2013年の調査ですでにこの差は明らかになっていたにもかかわらず、NFL全体の使用率はその後10年近く、ずっと2割前後で足踏みを続けてきた。数字が示す効果と、実際の使用率のギャップ ― この「伸びしろ」は、なぜこれほど長く放置されてきたのだろうか。

数字で見る「伸びしろ」

2013年、PFFが行った調査では、プレーアクションを伴うパスは、伴わないパスに比べてQBレーティングで99.2対83.3、YPAで8.6対6.8、タッチダウン率で6.1%対3.9%と、いずれの指標でも明確に上回っていた。この効果は一時的なものではない。2024年シーズン(11月時点)の調査でも、プレーアクションを使ったパスは8.13YPA、使わなかったパスは6.3YPAと、10年以上経った今も同じ規模の差が続いている。にもかかわらず、リーグ全体の使用率は2013年から2023年まで、おおよそ21%前後でほとんど動かなかった。

8.13 YPA プレーアクションあり 6.3 YPA プレーアクションなし
図: 2024年シーズン(11月時点)の調査でも、プレーアクションを使ったパスは8.13YPA、使わなかったパスは6.3YPAと、明確な差が続いている。

理由1:「ランが機能していないと使えない」という思い込み

この長年の低使用率の背景には、コーチたちの間に根強くあった一つの思い込みがある。プレーアクションは、地上戦がうまくいっている試合でこそ機能する、という考え方だ。ニューイングランド・ペイトリオッツのオフェンスコーディネーター、アレック・ヴァンペルトも2024年に「まずランをもっとうまく機能させる必要がある」と述べており、同チームがプレーアクションを毎週10〜12プレー程度しかコールしない理由の一つとして、この考え方を挙げている。

理由2:数字が示す、その思い込みの誤り

しかしアナリストのアーロン・シャッツは、この前提そのものに異を唱える。シャッツの分析によれば、直近数プレーでランがどれだけ成功していたか、そしてそのシーズンのラン全体の成功率がどうだったかは、プレーアクションの効果とはほとんど関係がない。ディフェンスがランフェイクに反応する度合いは、実際のランの出来不出来とは独立している、という指摘だ。シャッツは「プレーアクションを使いすぎて効果がなくなる水準に、まだ到達したチームがあるとは思えない」とまで述べている。

理由3:直近2〜3年でようやく動き始めた変化

この状況に、直近になってわずかな変化が見え始めている。リーグ全体の使用率は2023年23.36%から、2024年24.94%、2025年25.65%と、2年連続で上昇した。10年近くほとんど動かなかった数字が動き出した背景の一つに、後編で取り上げる、ある1人のコーチの存在がある。

観戦のヒント: オフェンスラインの動きに注目したい。プレーアクションでは、実際にはパスを投げるプレーであっても、ラインマンは一瞬ランブロックのように前に出る動きを見せる。この「ランを装う」動きが大きいほど、ディフェンスのランへの反応も強くなり、フェイクの効果が高まる。
もっと詳しく

プレーアクションが他のプレータイプとどう分類され、位置付けられるかは、以下の基礎知識で解説している。