「実戦プレー解説」は、実際の試合の1プレーを取り上げ、「何が起きたか」「なぜ機能したか」を解き明かす連載コンテンツ。今回取り上げるのは、QBを受け手とする奇策に見えるトリックプレーが、実は目新しいものではなく、成否を分けたのがQBの捕球までの準備だった例だ。第52回スーパーボウル(2018年2月4日)、フィラデルフィア・イーグルス41-33ニューイングランド・ペイトリオッツ。前半終了間際の4th&ゴールで選ばれた1プレーを解説する。

プレーの背景

ミネアポリスのUSバンク・スタジアム。第2Q残り38秒、イーグルスはペイトリオッツ1ヤード地点で4th&ゴールを迎えた。

前半が終わるまで38秒しかない。フィールドゴールを蹴ればほぼ確実に3点が入り、6点差で折り返せる。決めれば10点差。外せば、点が入らないまま前半が終わる。ヘッドコーチのダグ・ペダーソンはタイムアウトを取った。

そのタイムアウトの中で、QB(クォーターバック)のニック・フォールズがペダーソンに尋ねている。「Philly Philly でいく?」。ペダーソンは「やろう」と応じた。攻めるかどうかではなく、何を出すかを、QBの側から持ちかけた形だった。

フォーメーションとセット

イーグルスはゴールライン付近の並びで整列する。RB(ランニングバック)のコーリー・クレメントがフォールズの真後ろに立つ、ピストルに見える形だ。

スナップの直前、フォールズは右へ歩き、右タックルのレーン・ジョンソンの後ろに立つ。TE(タイトエンド)のトレイ・バートンは反対側、WR(ワイドレシーバー)のトーリー・スミスの後ろに重なる位置にいる。外のWRは、コーナーバックを連れたまま大きく離れて立っている。

ペイトリオッツはボックスへ人を寄せた。残り1ヤードでゴールラインなら、ランを止めにいくのはごく自然な判断である。

ケルシー(センター) ジョンソン(右タックル) スミス バートン フォールズ クレメント 右タックルの後ろへ
スナップ前、フォールズは右タックルの後ろへ移動する。ボールを受けるのはクレメントで、QBはこの時点でボールから最も遠い。

プレーの狙い

合図は「レーン、レーン」だった。呼ばれたのは右タックルの名前で、フォールズはちょうどその隣に立っている。合図そのものが、フォールズの居場所を説明していた。

スナップはQBを飛ばし、センターのジェイソン・ケルシーからクレメントへ直接渡る。この瞬間、フォールズはボールを持たない選手の1人になる。ディフェンダーの目は、必ずボールへ向かう。ボールが動くたびに11人の視線が更新され、その更新のあいだ、ボールから最も遠い場所にいる選手が人数の計算から抜け落ちる。

クレメントは左へ走り、横切ってきたバートンへピッチする。フォワードパスは1プレーにつき1回までと決まっているため、この受け渡しは後方へのバックワードパスでなければならない。そしてここでバートンに与えられたアサイメントは、パス一択ではなかった。本人によれば「1番目、2番目、3番目の選択肢は走ること。4番目がフォールズへ投げることだった」。走る道が3つ残されている以上、ディフェンスはパスだけを消すことができない。

何が起きたか

外のWRがコーナーバックを引き連れて離れ、エンドゾーンの角が空く。ボールはスナップでクレメントへ、バックワードパスでバートンへと渡った。

バートンのフォワードパスは、エンドゾーンの角に立っていたフォールズへ。1ヤードのタッチダウン。22-12として、イーグルスは10点リードで前半を終えた。このとき、スミスも空いていた。使われないまま終わっている。

ゴールライン ケルシー クレメント バートン 誰もフォールズを見ていない 1yd TD
ボールはケルシー、クレメント、バートンと2回持ち主を変える。そのあいだ、エンドゾーンの角にいたフォールズには誰も付いていない。

なぜ機能したか

このプレーを「意外性が勝った」と説明することはできない。

プレー自体は目新しいものではない。イーグルスのクオリティコントロールコーチ、プレス・テイラーが持つトリックプレーの保管庫から出てきたもので、元は2016年にベアーズがバイキングス相手に使った形だ。さらに遡ると2011年、サウスカロライナ州の高校コーチ、ハンター・スパイビーが作った「Detroit」に行き着く。Dはダイレクトスナップの頭文字である。そしてベアーズがそれを使ったのも、このUSバンク・スタジアムだった。

ペイトリオッツも、この発想を知らなかったわけではない。自分たちのプレーブックに持っていた。第2Q、フィラデルフィア陣での3rdダウン。RBのジェームズ・ホワイトがWRのダニー・アメンドーラへピッチし、アメンドーラがダウンフィールドのトム・ブレイディへ投げている。ブレイディは完全に空いていたが、指先が触れただけでボールは落ちた。

フォールズが空いたのは、そのあとである。同じクォーターのうちに自軍のオフェンスが出したばかりの発想に、ペイトリオッツの守備がやられた。

両軍で同じようにQBが空いたわけだが、分かれたのは、その先である。アメンドーラはWRで、投げる先はダウンフィールドのブレイディ、必要だったのはファーストダウンの更新だった。いっぽうバートンは、高校時代はデュアルスレットのQBで、フロリダ大にもQBとして獲得された選手である。そして投げる先は、1ヤード地点からエンドゾーンの角。立っているフォールズに届けば、それでタッチダウンだった。

ペダーソンはバートンに「足を痛めた蝶のように、柔らかく投げろ」と伝えている。バートンは、練習ではフォールズが毎回捕っていたと振り返る。要求される精度がどれだけ低い場所を選んだか、という話である。

届ける難易度を下げる工夫は、場面の選び方だけではない。前述のとおり、バートンには走る選択が3つ残されていた。パスを消しにくれば走られるので、ディフェンスはそのどちらにも備えなければならない。

ペイトリオッツは間違ったことをしていない。1ヤードを守るためにボックスへ寄り、ボールを追った。正しい反応が、そのままアサイメントの穴になっている。

フォールズはこの試合で3本のタッチダウンパスを投げ、さらに1本を捕った。スーパーボウルでパスを投げ、かつ捕った選手は、彼が初めてである。

まとめ

奇策と呼ばれるプレーの多くは、実のところ新しくない。高校から大学、NFLへと7年かけて渡り歩いたこのプレーが示しているのは、発想の目新しさではなく、ボールを動かす回数が人の目に何をするか、という単純な性質のほうだ。ディフェンスは11人で守る。だが11人が同時に見られるものは、1つしかない。

観戦のヒント: ゴールライン付近でいつもと違う並びが出てきたら、ボールではなく、ボールから離れていく選手を1人決めて追う。誰も付いていなければ、その選手が受け手になる。
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温存したプレーをチーム内でどう共有しておくか、そして誰がプレーを選ぶのかは、以下の基礎知識で解説している。