「実戦プレー解説」は、実際の試合の1プレーを取り上げ、「何が起きたか」「なぜ機能したか」を解き明かす連載コンテンツ。今回取り上げるのは、ブリッツを1回も仕掛けず、4人のパスラッシュだけでQB(クォーターバック)の投げ先を消し、残りの1つでボールを奪った例だ。第59回スーパーボウル(2025年2月9日)、フィラデルフィア・イーグルス40-22カンザスシティ・チーフス。第2Qの3rd&16で生まれたピックシックスについて解説する。

プレーの背景

ニューオーリンズのシーザーズスーパードーム。第2Q残り7:03、チーフスは3rd&16を迎えた。

このドライブは、始まってすぐに2つのサックを浴びている。1stダウンと2ndダウンで続けて倒され、更新に16ヤードが要る形になった。

点差は10-0。チーフスの攻撃は、この時点でほとんど前に進めていない。前半の総獲得は23ヤードにとどまり、スーパーボウルの前半としては史上2番目に少ない数字として残っている。

そしてイーグルスは、ここまで一度もブリッツを仕掛けていない。この試合は42回のドロップバックすべてを4人のパスラッシュだけに任せ、それでいてパトリック・マホームズから6サック・16プレッシャーを奪っている。

フォーメーションとセット

チーフスはショットガンで並ぶ。マホームズの一方にWR(ワイドレシーバー)のゼイビア・ワーシー、反対側にディアンドレ・ホプキンスが立つ。

イーグルスはラインに4人だけを置き、残りの7人を後ろに下げた。3rd&16では、短いパスを前で受け止めて倒せばそれで攻撃が終わる。深いところを厚くするほうが、この距離では理にかなっている。

クーパー・デジーンはワーシーの側に入った。ルーキーで、この日が誕生日だった。

マホームズ ホプキンス ワーシー ラッシュは4人 デジーン 後ろは7人のまま
3rd&16。イーグルスはラインに4人しか置かず、残りの7人を後ろに下げている。デジーンはワーシーの側に入った。

プレーの狙い

距離の長いダウンでブリッツを仕掛けないことには、はっきりした意味がある。

ブリッツは、ラッシュに1人足すかわりに、後ろの守りを1人減らす仕掛けだ。短い距離なら、この引き換えは割に合う。速く投げられてもヤードが足りないからである。だが16ヤードを守る場面では、減らした1人の後ろが、そのまま更新される場所になる。

イーグルスは、この引き換えをしなかった。4人で時間を作り、7人で場所を消す。投げ先が見つからなければ、ボールは出ていかない。出ていかなければ、4人でも届く。

何が起きたか

マホームズが最初に見たのはワーシーだった。

デジーンは、そのワーシーの手前に留まっていた。マホームズ自身が試合後にそう振り返っている。前を消されたので、マホームズは体を作り直し、フィールドを横切る長いボールを反対側へ投げた。深いクロスで入ってくるホプキンス。通ればファーストダウンの更新だった。

その軌道の上に、デジーンがいた。ワーシーの手前に留まっていたはずの選手が、自分の受け持ちを離れ、反対側から入ってくるルートを奪いにきていた。LB(ラインバッカー)のザック・ボーンは、デジーンがカバレッジを離れて反対側のクロスを盗んだ、と話している。

デジーンは38ヤードを走り切ってエンドゾーンへ。ピックシックスで17-0。本人は、何人かがブロックに入ってくれたおかげで入れた、と振り返っている。

マホームズ ホプキンス ワーシー 短いルート ホプキンスの深いクロス パス デジーン 38yd ピックシックス
ワーシーの手前に留まっていたデジーンが、反対側から入ってくるホプキンスのクロスを奪う。そのまま38ヤードを走り切った。

なぜ機能したか

このインターセプトを、デジーンの反応の速さだけで説明することはできない。

効いていたのは、まず距離である。3rd&16は、マホームズから「速く投げて逃げる」という手を奪っていた。16ヤードを進める球を投げるには、受け手がその距離まで走る時間が要る。4人のラッシュしか来ていなくても、待たされる時間が長ければ、それは圧力になる。

次に、4人で行ったということ自体。ブリッツを仕掛けていれば、後ろは1人減る。ホプキンスの深いクロスは、ちょうどその減った1人の場所を通っていた。

そして、デジーンが自分の受け持ちを離れられた理由。前にいたワーシーのルートは短い。マホームズがそこへ投げられない以上、デジーンはその相手に縛られている必要がない。受け手ではなくボールを見ていられる守備の選手が、いちばん危ない。

マホームズは間違ったことをしていない。前が消え、時間が尽きかけ、残っていたのが反対側のホプキンスだった。狭いウィンドウに投げ込むしかない、という判断である。正しい手順を踏んだ結果が、最も遠いところで待たれていた。

直前の2つのサックも、同じ4人から出ている。1st、2ndと続けて倒されて16ヤードを戻したことが、この3rdダウンの形を決めていた。1プレーだけを切り取ると、この因果は見えない。

まとめ

ブリッツは、圧力を生む方法のひとつでしかない。ラッシュに人数を足せば前の圧力は上がり、そのぶん後ろの守りは薄くなる。イーグルスはこの試合、一度もブリッツを仕掛けないまま、6回倒して16回追い込んだ。前を4人に任せられるかどうかは、後ろをどれだけ信じられるかで決まる。守備の設計は、ライン際ではなく、いちばん後ろから決まっていく。

観戦のヒント: 3rdダウンで距離が長い場面では、守備がラインに何人置いたかを数えてみるといい。4人しか置いていないなら、その守備は時間で勝てると踏んでいる。QBがボールを持ったまま2秒を超えたあたりから、受け手ではなくボールを見ている守備の選手を探すと、投げ先が1つずつ消えていく様子が見える。
もっと詳しく

ゾーンで誰が何を受け持ち、どこから先を後ろへ渡すのかは、以下で解説している。